越前国・鰺岡藩堀家は、五万三千石を拝領する徳川家の譜代大名。
藩主の堀兵庫頭忠行(宇梶剛士)は、武芸を奨励し、領内での剣術試合を楽しみの一つとしている。剣の精鋭がそろう中にあって、実力一、二を争うのがお先手組・森十兵衛(永山絢斗)と、馬廻組・田中源四郎(尾上松也)であった。
ある年、御前試合に勝ち進んだ十兵衛と源四郎は決勝戦で相まみえることに。これまで、何度か立ち会ったことがある両者だが、いつも勝っていたのは十兵衛。しかし、今回は拮抗の末、源四郎が勝利をもぎ取った。負けた十兵衛だったが、なぜか清々しさすら覚えるのであった・・・。
ある夜、母・みね(高島礼子)と縁日に訪れた十兵衛は、許嫁の千里(北原里英)を伴った源四郎に出会う。日頃から言葉を交わすような関係ではないが、剣を通じて認め合っている十兵衛と源四郎。互いに会釈だけで別れたが、源四郎と千里の仲睦まじさに鉢合わせた十兵衛は心に温かいものを感じるのであった。
しかし、悲運の始まりは間近に迫っていた・・・
千里が自害して果てたという噂を耳にした十兵衛。
事の起こりは、御前試合から数日後、藩主・忠行が千里を見初めたことからはじまった。忠行の側室に、という下知に従うしかない千里の父は、源四郎になくなく婚約解消を懇願。源四郎と別れることが耐え難い千里は自害し、恨みを増幅させた源四郎は、忠行を拳骨で殴りつけ、そのまま出奔—————。源四郎に同情を寄せていた十兵衛だったが、叛逆行為に加え脱藩した源四郎の追手として“上意討ち”を命ぜられるのであった。
複雑な思いを抱えながら源四郎を追う旅へと出立する十兵衛。数か月後、美濃国の船着場で源四郎を見つけた十兵衛。追うものと、追われるものの関係になったことを悟り、剣を構える両者・・・しかし、瞬時に渡し船に飛び乗った源四郎が逃走。十兵衛は千載一遇の機会を取り逃してしまう。
二年の月日が流れ、源四郎の逃避先を江戸と定めた十兵衛。武蔵国に足を踏み入れた宿場町にて再びまみえることに。柄に手をかけ抜刀し合うその瞬間、荷を積んだ大八車に邪魔をされる。その隙を見て源四郎は逃走。十兵衛は再び取り逃がしてしまう。
さらに月日が流れ江戸藩邸に流れついた十兵衛は、源四郎を討ちとれない現状を見た忠行から、さらに追手が放たれたことを知る。焦りとともに源四郎に寄せる同情の念。その狭間での葛藤と、長年にわたる旅で十兵衛は疲れ果てていた————。
そしてついに三回目の遭遇がやってくる。箱根の峠を越えた山中で、十兵衛を呼び止める源四郎。
「貴様、どうしておれを討たぬ!」
いきり立ち向かってくる源四郎に、返事を窮する十兵衛・・・。
三度目にして、初めて剣を交えることになった二人の両刀が激しくぶつかり合う。
しかし次の瞬間、十兵衛は橋の欄干から飛び降り早川に身を任せるが如く姿を消してしまう。何が起こったのか理解できない源四郎はたたぼう然とするのだった。
鰺岡藩を出てから五年が経ったある冬、十兵衛はついに近江国で行き倒れてしまう。偶然通りがかった井ノ口村庄屋の橋本彦八(中村梅雀)に助けられることになった十兵衛。橋本家に運び込まれ、彦八の娘・お妙(桜庭ななみ)の献身的な介抱を受け徐々に体を回復していく。数カ月が過ぎたある日、安堵にも似た思いと、自分に課せられた使命の間で葛藤する十兵衛は、彦八に自分の素性を明かす。すると、彦八はとんでもないことを十兵衛に提案する。お妙と夫婦になって庄屋の跡継ぎにならないか、というのだ。
もはや、国許に戻る意味も見いだせない十兵衛は彦八の提案を受け入れるのだった。
その頃、源四郎はさらに放たれた追手を返り討ちにし、逃走を続けていた。
新たな自分の生きる道を歩き出した十兵衛は、お妙との間に子どもを設け、満ち足りた日々を送る。そんなある日、森の水場で水を汲もうとしていた十兵衛は、源四郎と遭遇する。まだ、自分を狙っていると思っている源四郎は、十兵衛の顔に切っ先を向ける。
「刀を取ってこい!」
そう言う源四郎に、十兵衛は静かにこたえるのだった・・・